理事長挨拶

日本早産学会理事長 
大槻克文

『早産の予防』は周産期医療において、我々が現在取り組むべき最も重要な課題の一つであります。早産を減らしていくことは世界的な課題でもあり、新生児死亡の原因の最大の原因は児の未熟性であります。世界中では地域によって早産率は異なり、先進国の中でも早産率が10%以上の国も存在し、米国でさえも近年は著しく減少傾向があるものの未だ早産率10%前後となっています。本邦においては1990年以降増加傾向を示し、最近では5.7%前後と変化を認めていない状況です。また、本邦の周産期死亡率は世界一低い水準に達していますが、妊娠30週未満での早産児の死亡率は高く、先天奇形を除く周産期死亡の約75%は早産児が占めており、仮に生存したとしても、早産児は様々な困難を抱えていることが指摘されています。これらの児の予後を改善するためには、新生児医療の進歩に期待するのみではなく、早産そのものを減少させる事が重要なことは言うまでもありません。また、早産発症の原因は多様であるがゆえに、そのメカニズムについて画一化した理解と説明を行うことは困難であります。高年出産の増加に伴い母体合併症等によって医学的な理由や判断で早産に至ることも少なくありません。また、生殖補助医療の増加による多胎や子宮内胎児発育遅延などの増加による医原的な側面も存在します。これら医原的な早産に注目しつつも、従来の感染や炎症に基づく早産発症のカスケードを理解することは依然として重要であることに変わりはありません。

一方、現実には早産の予防法ないし切迫早産の治療法についても研究段階を脱していない事項も多々存在するのが現状です。また、従来はスタンダードであるとされていた早産予防治療が見直されたり、あるいは治療の適応が見直されたりするなど、常に対応が求められています。

日本早産学会は、これら多様な問題に関心を持ち、その改善を追求する研究者の団体です。本学会は、2002年に故岡井崇教授(昭和大学)により設立された東京早産予防研究会Tokyo Society of Preterm Birth Prevention (TOPP)(後に日本早産予防研究会Japan Society of Preterm Birth Prevention: JOPP)が前身となり、2016年に日本早産学会となりました。特徴的な点は、学術集会における研究成果の報告や議論はもとより、研究者一人ひとりが持つ研究テーマ(research question)を具現化する多施設共同研究を行うことを主たる目的にしていることです。

これまでに多くの施設の研究者にご参加いただき、合議により研究計画を立て実施し、様々な成果をあげています。今後も、これらの活動を通じ、早産によりもたらされる種々の問題を解決し、社会に貢献できればと考えております。

一緒に早産の原因と解決法を探求していきたいと思います。

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